佐野の家
敷地は濃尾平野の東部に位置し、水田と住宅地が混ざり合う地域。実家の傍らに建つ家族3人のための住宅である。
周囲は水田が広がるおおらかな風景と、住宅地にある生活スケールが併存するような街並みであった。
隣接する実家は、母屋の他に陶芸アトリエを併設しており、計画敷地内にもその倉庫があった。また北側には道路を挟んですぐに工業高校の敷地に面しており、水田とは異なるマッシブな質感と、ドライな広さがあった。
住人は、ここに住宅を計画するにあたり、単に新しくきれいな建物ではなく、幼少期のルーツや、学生時代の記憶、現在の暮らしやこれからの暮らしなど、時間軸が感じられる場所にしたいという思いがあった。
そこで現在ここにあるテクスチャーや、過去の記憶の中にあるテクスチャーをブリコラージュするように住宅全体を構成することを考えた。
具体的には、実家のアトリエや、隣接する校舎の質感、学生時代に住んでいたアパート、幼少期に過ごした母国の街並みなどからテクスチャーをサンプリングし、住宅を構成する素材として採用した。
それらの素材は、それぞれ独立した壁として現れ、室単位ではなく、群をなして住宅全体を囲うものとしてランダムに現れる。
その壁群は場所ごとに要素を備えた厚みを持ち、住宅機能を担保する。一見無関係なテクスチャーはそれぞれに固有の領域性をつくり、思い入れのある素材、過去の記憶と重なる素材、意識する素材によって認識する領域が変化する。建築は固く、動かない存在であるが、住宅全体のまとまり、部屋単位のまとまり、テクスチャーがつくるまとまりなど、認識の中で空間の形や大きさは常に伸び縮みし、多重性と全体性を行き来する。
壁の独立性は、住宅の「建物」や「部屋」といった単位を解きほぐし、要素に分解することに寄与する。
さらに家具と建築の間を取りもち、家具や物と建築、また建築と街並みの親和性を高める。
この多重性の中に、さらに住人の現在、未来の生活が重ね合わされて行くことで複雑性を増し、住人の生活、記憶、家族の関係などを包括する住人そのもののような住宅になればと考えている。